開設以来、四半世紀(25年)にわたりレイアウトを変えずに歯科診療が継続されている診療所(医院)をご存知ですか。
この診療所は神奈川県湯河原町に実在する歯科医院で、愛歯科湯河原診療所と言います。この診療所はHPI研究所の教育担当専任講師であった渡部哲人先生(故人)により1992年に開設され、渡部哲人先生がお亡くなりになって、その後を引き継がれたのが現在のセティシャイ・オパーシャイタッ先生です。
この診療所はOMU(Optimum Management Unit)と称しまして、Dr.Daryl Beach(故人)の指導の下に設計施工されました。通常25年も経つといろいろ手が加えられ形が変化するものですが、優れた設計理論で構築されているため変化する必要がありませんでした。
Dr.Beachの教えの中に、資源(人類の英知を含む)とストレスは最小限にして、効果を最大にするという言葉があります。また、ストレスのない空間に関してもたくさんの言葉を残しています。その一部をご紹介します。
※Line Trapに注意しましょう
素晴らしい機能物には魅力を感じ、導入したくなる気持ちが生じます。しかし機能物は人間の空間を占拠します。これをLine Trapといい、特に注意をするべきです。歯科治療に必要な機能物は何かをよくよく考え、人のために確保されていた貴重な空間を失わないようにしましょう。
新しい設備(機能物)に反対する気持ちはありません。しかしその設備が人間の行動に必要な空間を占拠してはなりません。
※Sense of Freedom
空間は広すぎても狭すぎてもいけません。ちょうどよい広さが必要になります。車を運転しているとき、並走していた車が横に近づいてきたら必ずハンドルを切って空間を保ちます。この空間は安全が確認できる範囲で必要以上に空間を取ることがありません。この安全と感じる空間の事をDr.Beachは「Sense of Freedom」と呼びました。
治療中において「Sense of Freedom」を確保することは、注意の散漫を防ぎ、作業の集中力を増すことにもつながります。また、患者様がリラックスできる空間の確保にも重要です。
それでは、1994年に発行されたDentalInterio誌に掲載された診療所(設立は1992年です)と2018年2月に撮影された診療所を併記いたします。ご覧ください。
廊下と治療ユニット(94’ DentalInterioより) | |
廊下(2018年現在) | 治療ユニット(2018年現在) |
上部見開きが掲載記事となっています。下部2枚の写真が2018年2月に撮影したものです。 |
待合 | |
待合(94’ DentalInterioより) | 待合(2018年現在) |
このエリアは最初に来院した方が申込用紙を書きやすいよう、テーブルを設けています。 |
クイックチェックエリア | |
クイックチェックエリア(94’ DentalInterioより) | クイックチェックエリア(2018年現在) |
ここは最初に患者さんの状態を確認する為のエリアです。座った患者さんと立ったドクターの視線が合うように高さが考えられています。 |
パウダールーム | |
パウダールーム(94’ DentalInterioより) | パウダールーム(2018年現在) |
ここは治療後、女性がお化粧を直して帰っていただくためのエリアです。 |
治療エリア | |
治療エリア(94’ DentalInterioより) | 治療エリア(2018年現在) |
治療エリアには水平診療台が設置されており、OMUユニットの最大の特徴となっております。たくさんの解説点がありますが改めて説明したいと思います。 |
衛生士エリア | |
衛生士エリア(94’ DentalInterioより) | 衛生士エリア(2018年現在) |
OMUユニットには受付のすぐ近くに衛生士の為のエリアがあります。衛生活動に重点を置き、ブラッシング・予防を大切にしています。 |
スタディ&ディスカッションエリア | |
S&Dエリア(94’ DentalInterioより) | S&Dエリア(2018年現在) |
治療方針等を話すだけでなく、なぜ治療が必要か、なぜ衛生活動が大事かなどをお互いに話し合う為のエリアです。 |
技工士エリア | |
技工士エリア(94’ DentalInterioより) | 技工士エリア(2018年現在) |
OMUユニットでは院内技工士の活動エリアが用意されています。治療の場の近くに技工士がいることのメリットは大きいですが、近年は院内に技工エリアを置くことが難しくなっております。 |
従来は人間の空間分析・行動分析は人間工学(Human ergonomics/Human engineering)の分野の学問で研究されてきましたがDr.Beachは固有感覚演繹誘導(Proprioceptive Derivation)という考え方を導入し設計をしました。機器ではなく、人の感覚を中心に据えたPDを提唱され、それを体現したのがこのOMUなのです。